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解雇・雇止め

従業員を解雇する際の注意点

2023.11.20

解雇に関する相談事例

経営者や人事担当者の方から、下記のような従業員を解雇したいが可能かというご相談を受けることがしばしばあります。

 

    • 業務成績が著しく悪い従業員
    • 業務命令に従わない反抗的な従業員
    • 欠勤を繰り返す従業員

 

しかし、解雇は従業員の生活の糧を奪う重大な処分であり、様々な法的規制がなされているため、従業員を解雇することは実は容易なことではありません。

 

もし、法的紛争に発展して、裁判所から解雇無効と判断されると、企業は従業員に対して解雇期間中の賃金を支払わなければならず(バックペイ)、その金額は1000万円以上となることもあります。

 

また、解雇が不法行為の要件を満たす場合には、企業に損害賠償責任が生じることになります。

 

このように、従業員の解雇は、一歩間違えると、企業に多大な損失をもたらすことになりますので、紛争予防の観点から、慎重に解雇の可否を見極めながら手続を進める必要があります。

 

解雇の種類

解雇は、企業による労働契約の一方的な解約のことをいいます。

 

解雇は、普通解雇と懲戒解雇に分けられます。また、普通解雇には、企業側の都合による整理解雇と、従業員側の理由による狭義の普通解雇があります。

  • 普通解雇(狭義

普通解雇は、労務の提供という債務の不履行がある従業員に対して、企業が一方的に労働契約を終了させるものです。

 

労務の提供という債務の不履行がある場合として、様々な事由が解雇事由になり得ますが、大きくは、①従業員の能力・適格性の欠如(勤務成績不良)によるもの、②従業員の規律違反(勤務態度不良、業務命令違反)によるもの、③私傷病等の理由によるものに類型化されます。

 

  • 整理解雇

整理解雇は、企業が経営上必要とされる人員削減のために行う解雇です。

 

従業員に非がない解雇であるため、企業には、整理解雇を回避する手立てを最大限に講じることが要求されます。

 

  • 懲戒解雇

懲戒解雇は、重大な企業秩序違反行為をした従業員に対して、一種の制裁罰として、企業が一方的に労働契約を終了させるものです。

 

懲戒処分の中でももっとも重い処分であり、失業手当の給付制限や、再就職が事実上困難となる等、普通解雇よりも大きな不利益が従業員に生じることになります。

 

普通解雇(狭義)の注意点

普通解雇に関する規制でもっとも重要なものは、解雇権濫用法理と呼ばれる規制です。

 

解雇権濫用法理とは、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」(労働契約法16条)というものであり、解雇の濫用に当たるか否かは、事案に応じて個別具体的に判断されることになります。

 

  • 従業員の能力・適格性の欠如(勤務成績不良)による解雇の場合

企業が、従業員の勤務成績不良を理由に、就業規則上の「労働能力が劣り、向上の見込みがない」という解雇事由に該当するとして解雇するケースがしばしばみられます。

 

勤務成績不良を理由とする解雇の場合には、企業の業務内容、規模、当該従業員の職務内容、雇用形態(終身雇用のジェネラリストか、中途採用有期雇用のスペシャリストか)、当該従業員の採用理由、職務に要求される能力、勤務成績(評価方法、評価内容、フィードバックの有無)、当該従業員の経歴、改善可能性の有無、企業からの指導があったか(注意・警告を行ったり、反省の機会を与えたりしたか)、他の従業員との取り扱いに不均衡はないか等の様々な事情を考慮して、解雇権濫用に当たるか否かが判断されます。

 

裁判所は、長期雇用の従業員の場合には、成績不良があっても、それが重大なものかを慎重に認定して、解雇を容易には認めない傾向にあります。

 

したがって、長期雇用を前提として採用された従業員については、能力不足を理由に直ちに解雇することは適切ではなく、企業は、まずは改善のための教育、指導、配置転換等の措置を講じ、解雇回避努力を行っていく必要があります。

 

他方、職歴や能力に着目して高給のポストに中途採用された従業員の場合には、能力不足が判明した場合、解雇が認められやすい傾向にあります。

 

したがって、企業が従業員の特定の能力に着目して採用した場合には、雇用契約書にその旨を明記しておくことが紛争予防につながります。

 

  • 従業員の規律違反(勤務態度不良、業務命令違反)による解雇の場合

規律違反を理由とする解雇の場合は、規律違反行為の態様(業務命令違反、職務専念義務違反、信用保持義務違反等)、悪質性の程度、回数、業務に与える影響、改善可能性の有無等の様々な事情を考慮して、解雇権濫用に当たるか否かが判断されます。

 

裁判所は、従業員の過去の規律違反行為を一つ一つ検討して事実認定を行い、個々の行為が些細であっても全体としてみれば従業員の行為が看過できない程度に職場秩序を害していると評価される場合には、解雇を有効とする傾向にあります。

 

したがって、企業は、従業員に規律違反行為があった場合には、書面やメール等の証拠に残る方法で注意や指導を行ったり、従業員に始末書や反省文の提出を求めたりする等の対応を行っておく必要があります。

 

また、解雇は、労働者に与える影響が大きく、あくまで最終的な手段であるべきと考えられていますので、注意や指導を行っても改善が見られない場合には、業務改善命令、けん責等の処分を行い、場合によっては減給、出勤停止等の処分を行って、従業員に反省と改善を促していく必要があります。

 

  • 私傷病等の理由による解雇の場合

近年、従業員がうつ病等の精神疾患を発症して労務の提供ができなくなり、企業が対応に苦慮するケースが増加しています。

 

私傷病等の理由とする解雇の場合は、労働契約上、職種や業務内容が特定されている場合は、その職種ないし業務内容を行うことができるか、特定されていない場合は、ある職種ないし業務内容を行うことができなかったとしても、他の職種ないし業務内容まで不能であるか、企業が復帰のための十分な準備期間を提供したか等の事情を考慮して、解雇権濫用に当たるか否かが判断されます。

 

したがって、企業に休職制度(私傷病等により労務の提供ができなくなったときに、企業が労務への従事を一定期間免除し、その期間中に回復すれば復職、期間満了時に回復していなければ自然退職ないし解雇とする制度)がある場合には、たとえ就業規則の解雇事由(例えば、「健康状態が勤務に堪えられないと認められるとき」)に該当する場合であっても、まずは休職制度を利用するべきです。

 

また、休職期間満了時に、従業員が従前の労務を提供できる程に体調が回復していない場合であっても、直ちに解雇するのではなく、配置可能な他の業務を提案したり、復帰のための教育訓練を行ったりといった措置を採っておくことが重要となります。

 

整理解雇の注意点

整理解雇も普通解雇の一種ですので、解雇権濫用法理の規制に服します。

 

したがって、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効」となります(労働契約法16条)。

 

もっとも、狭義の普通解雇と異なり、整理解雇の場合には、従業員に非はないことから、①人員削減の必要性、②解雇回避努力義務の履行、③被解雇者選定基準の合理性、④解雇手続の妥当性という4つの要件(要素)を考慮して、解雇権濫用に当たるか否かを判断することになります。

 

したがって、整理解雇が有効と認められるためには、①企業の合理的な運営上やむを得ない人員削減の必要性があることを前提に、②従業員に対して、他部署や関連会社での勤務、希望退職などの機会を与え、③客観的かつ明確な被解雇者選定基準を設け、④従業員に対して企業の財務状況等を示して解雇条件を説明する等の対応を適切に行っておく必要があります。

 

懲戒解雇の注意点

懲戒解雇は、普通解雇よりも従業員に与える不利益の程度が大きいことから、より厳しい規制である懲戒解雇権濫用法理に服します。

 

懲戒解雇権濫用法理とは、「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。」(労働契約法15条)というものです。

 

就業規則に懲戒解雇についての定めがあり、かつ、従業員が懲戒事由に該当する行為を行ったことが大前提となりますので、企業としては、従業員による企業秩序違反行為について十分に調査を行い、客観的に証明する資料を作成しておく必要があります。

 

その上で、行為の内容や態様(故意・過失の程度、過去の処分歴、反省の態度等)、企業秩序違反の程度(業務に生じた支障の程度、他の従業員への影響等)、懲戒処分の相当性(懲戒処分の内容が企業秩序の回復に必要十分か等)、他の懲戒処分との均衡等と考慮して、懲戒解雇権濫用に当たるか否かが判断されることになります。

 

したがって、企業としては、懲戒解雇はもっとも重い懲戒処分であり、従業員に与える影響が極めて大きいことを自覚し、懲戒解雇に至る前に、段階的に懲戒処分を行っておくといった対応を行っておく必要があります。

 

当事務所によるサポート

解雇の有効性の判断は、上記の解雇権濫用法理、懲戒解雇権濫用法理に照らし、様々な事情を考慮して判断されますので、これまでの裁判例の動向等を踏まえて、慎重に検討する必要があります。

 

また、解雇無効と判断された場合にはバックペイを支払わなければならない等、企業に重大な損失が生じますので、そのような判断とならないように、解雇処分を行う前に法的知見を踏まえた入念な準備が必要となります。

 

当事務所では、解雇案件に関する豊富な解決実績がございます。紛争予防の観点から、まずは従業員の解雇前にご相談いただくことをお勧めいたします。また、既に法的紛争に発展した案件のご相談もお気軽にお問い合わせいただければと思います。