残業代請求場面でのタイムカードの重要性
目次
タイムカードの重要性
企業において、タイムカードを導入している場合、労働者からの残業代請求の場面では、タイムカードは実労働時間を認定する極めて重要な証拠となります。
裁判実務においては、特段の事情のない限り、タイムカードの打刻時間をもって出勤・退勤の時刻と推認し、タイムカードの記載に従って時間外労働時間を算定するのが合理的であるとされています。
なお、使用者は、労働者の安全配慮及び賃金算定義務の関係上、実労働時間を把握する義務があます。そのためのタイムカード等の資料を最低3年間保存する義務があります。
タイムカード以外の客観的証拠について
<出退勤ソフト>
IT環境の普及により、タイムカード以外の方法により労働時間を管理する企業が増えています。
顧問先企業においても、パソコンやスマートフォンの出退勤アプリを導入している企業も多いです。これらのツールによって記録された出退勤時刻は、タイムカードと同様に重要な証拠となります。
<入退館記録>
会社が警備会社に警備を委託している場合、会社の入退室にセキュリティカードを利用している場合があります。警備会社が各従業員のセキュリティカードの入退室時刻を記録している場合があり、これが開示されれば、客観性の高い実労働時間の立証資料となります。
<パソコンのログイン・ログアウト時刻>
企業が各従業員の専用のパソコンを配布し、これを使用して業務を行っている場合は、パソコンのログイン・ログアウトによって、実労働時間を立証できる場合があります。
また、電子メールの送信時刻も実労働時間の立証に用いられることがあります。
<店舗の開店・閉店時刻>
飲食店、美容室などの店舗営業している職場の場合、店舗の開店・閉店時間も実労働時間の立証に用いられることがあります。
また、シフト制で勤務している場合は、開店・閉店時刻とシフト表を併用して労働時間を立証することになります。
賃金支払の対象となる実労働時間
賃金の支払対象となる労働時間とは、労働基準法上の労働時間であり、実労働時間と呼ばれます。残業した時間は、実労働時間から所定労働時間を差し引いて求めることになります。
すなわち、残業時間を算出するには、まず実労働時間を確定させる必要があります。
企業によっては、1時間未満の残業時間がある場合、30分未満を切り下げて給与計算をしているところも多いのではないでしょうか。
しかし、法律上は、残業代は1分単位で発生します。訴訟においても1分単位で残業代を計算して請求が行われることになります。
実労働時間該当性が問題になるケース
裁判実務においては、労基法上の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間と定義されます。
したがって、対象となる時間が実労働時間に該当するかどうかは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間といえるか否かによって判断されます。
裁判で実労働時間の該当性が問題になる典型的なケースは以下のようなものがあります。
1 準備・後始末の時間
業務開始時刻の前に、着替えや朝礼を行ったり、業務終了後に店舗の清掃や引き継ぎを行う場合があります。これらの作業が業務上義務付けられており、使用者の指揮命令による場合は、実労働時間に該当する可能性が高いと考えます。
2 待機時間
待機時間とは、工場労働者が作業を行うために、前工程から部品が届くまで待機したり、店員が客の来店まで待機したりする場合をいいます。
労働者が具体的な作業を行っていなかったとしても、使用者の指示があればすぐに作業に従事することになりますので、労働時間に該当することになります。
3 持ち帰り残業
仕事を自宅に持ち帰って行う場合、使用者からの明示または黙示の指示があれば労働時間と認められます。
最近では、情報漏洩防止の観点から、職場のパソコンやデータを外部に持ち出すことを禁止している企業が多いです。
4 研修
研修や訓練については、参加の自由が保障されているかどうかが労働時間該当性の判断のポイントになります。
研修の不参加にはペナルティーが課されるなど、事実上参加が強制されている場合は、労働時間になります。
残業代請求が認められないための労務管理の手法
残業代請求への対策を考えるにあたって、前提とすべき点は、ローパフォーマーであっても所定労働時間を超えて勤務していれば、残業代を払わなければならないということです。使用者は、この事実を正面から受け止めなければなりません。
労基法が、労働時間に対応して残業代の支払い義務が発生するという規定になっている以上、残業代を支払わなくて良いという抜け道は基本的にはありません。
小手先の対策で、かえってリスクを高めてしまうこともあります。
例えば、残業代請求への対策として固定残業代の制度を導入したところ、残業代を含む趣旨で高額な賃金を支給していたにもかかわらず、訴訟では残業代を含むものとは認められず、さらに、高額の賃金をもとに時間外手当の単価が算出され、かえって請求額が高額になるケースもあります。
残業代請求への対策として、最も確実なものは、残業をしないこと、すなわち、不要な残業を止めさせることです。
使用者が労働時間を確実に把握して、それを使用者が主導してコントロールすることが極めて重要です。
残業代請求対応について当事務所でサポートできること
タイムカードは、労働時間を把握するために極めて重要な証拠のなることは前述のとおりです。
会社が残業代を支払っていない場合は、労働者が業務を終えた後で、仕事をせずにダラダラ残っていたとしても、会社に特に不利益がないとして注意を払っていなかったかもしれません。
しかし、そのような状況であっても、タイムカードで労働者が会社に残っていたという事実が認定される以上、労働時間と認定されるリスクは極めて高いと考えます。
そこで、残業代請求への対策としては、残業許可制(許可のない残業の禁止)を徹底することが重要です。
許可のない残業を禁止すること全従業員に周知し、管理職にも厳格に運用することを徹底させます。
これに違反する労働者に対して、書面で注意を行い、それでも不要な残業が繰り返される場合は、懲戒処分を行うことも検討します。
残業代請求が行われた後からでは、できることに限りがあります。
重要なことは、残業の許可制や就業規則の整備などの対策を事前に行い、残業代請求が生じにくい制度を構築することです。
当事務所では、残業代請求対応について、豊富な経験を有しておりますので、上記のような制度を導入するための書式の提供や運用のサポートをすることが可能です。
残業代請求対策を検討の企業の方は、ぜひ当事務所にご相談ください。