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1.サービス業の皆さまへ

サービス業とは、個人や法人に対して、商品の販売以外のサービスを提供して対価を得る業種をいいます。

運輸業、郵便業、不動産業、専門・技術サービス業、宿泊業、サービス業、教育・学習支援業、医療・福祉業など幅広い業種が含まれます。法律事務所の業務もサービス業に含まれることになります。

不動産業、サービス業、病院・クリニック、介護施設等については、別に記載していますので、ここでは、美容院、学習塾、レンタル・リース業などを想定したサービス業特有の法的リスクについて、説明いたします。

まず、サービス業の運営においては、お客さまとのトラブルは避けられないといっていいでしょう。
クレームの大小はともかく何らかのトラブルを経験している店がほとんどではないでしょうか。

また、顧客及び取引先との契約、及び、出店や退去に伴う不動産賃貸借契約はサービス業において不可欠な契約であり、これらの契約に関するトラブルが生じやすい傾向にあります。

そこで、美容業、塾・学習支援業、レンタカー業など各種サービス事業者の顧問弁護士として活動している弁護士が、これまで経験した事例など踏まえて、サービス業特有の法的リスクについて解説します。

2.サービス業特有の法的リスク

(1)新規出店時のリスク

賃貸借契約に伴うリスク

サービス業を新規出店する場合、店舗物件の賃貸借契約を締結します。
賃貸借契約書の内容を十分に確認し、必要であれば条項の修正を行い、将来のトラブルのリスクを回避することができます。
特に注意が必要な条項は、以下のとおりです。

原状回復の規定
舗の移転や閉鎖によって物件を明け渡すことになった場合、特にトラブルが生じやすいのが原状回復義務の範囲です。
一般的な賃貸借契約書では、明渡の際、経年劣化、自然損耗と認めがたい破損・汚損・故障等の補修をする費用は賃借人が負担し、賃借人がその措置をとらない場合は、賃貸人の負担で原状回復に必要な措置をとることができ、その費用は賃借人の負担になるとの規定が設けられています。
この原状回復をどこまで行う必要があるかということで、大家と賃借人との間で、意見が対立することになります。できる限りきれいな状態にして次の賃貸人を募集したという賃貸人の意向と、退去するのにお金をかけたくないという賃貸人の意向がそもそも相容れないことから、トラブルが生じやすい状況となっています。
賃貸借契約の開始からかなりの年数が経っている場合は、そもそも原状がどうだったかということが不明なことが多く、設備の所有権の帰属について争いになることもあります。
これらを防ぐためには、賃貸借契約書において原状回復の範囲を明確に定めておく必要があります。また、賃貸借契約の開始時に写真撮影をしておき、元の状態を明らかにしておくこともトラブルを避けるためのポイントになります。

中途解約の場合の違約金
中途解約の場合の違約金が非常に高額に設定されているケースがありますので注意が必要です。期間満了までの賃料相当額が違約金として設定されており、実質的には中途解約ができないこともありますので、中途解約条項は必ず確認するようにしてください。

オーナーチェンジ
サービス業における事業譲渡には注意が必要です。美容室の店舗を優秀な店長にのれん分けしたり、学習塾の教室を第三者に教室ごと譲渡することがあります。
賃貸借契約において、賃借人は、賃貸人の同意を得ない限り、賃借権を譲渡することはできません(民法612条2項)。
したがって、美容室や塾などの事業譲渡を行う場合、賃貸人の同意を得たうえで、旧賃借人は賃貸借契約から離脱し、新賃借人が賃貸人との間で、賃貸借契約を新たに締結することになります。
もっとも、株式譲渡や会社分割などの手法によって、サービス事業の譲渡を行う場合は、譲渡の対象となる会社の支配権は譲受人に移転しますが、賃借人の地位は、会社のまま変更がないことになります。したがって、通常は賃貸人の同意がなくても事業譲渡を行うことができます。
なお、契約書によっては、COC(チェンジオブコントロール)条項が存在することもありますので、注意が必要です。
COC条項とは、M&A等により、経営権の譲渡があった場合に、何ら催告をすることなく契約を解除して明渡を求めることができるとの規定です。
COC条項がある場合は、株式譲渡の方法による手法でも、事前に賃貸人の同意が必要なケースがあります。

店舗物件の賃貸借契約は、サービス事業の根幹をなす極めて重要なものです。
当事務所では、賃貸借契約書のリーガルチェックを行っておりますので、ぜひお問い合わせください。

店舗の名称に関するリスク

新規出店をする際、店の名前を決めて、看板、チラシ、メニューなどを準備することになります。

店の名前が知らないうちに他社の商標権を侵害する事態にならないように注意が必要です。
もし、すでに他の店が同じ名称で商標登録をしていれば、その名称は使用することができません。

そのような自体が発覚した場合は、店の名前を変更せざるを得なくなるため、看板やメニュー表などすべて作り替える必要があるうえ、相手方から損害賠償を請求される可能性があります。

当事務所が担当した事案では、突然、県外の法律事務所から内容証明郵便が届き、店名の使用差し止めと損害賠償請求を求められたケースがありました。

最近では、店の宣伝にホームページを作成する店舗がほとんどですので、全国の店の名前を簡単に検索することができます。近所に同一の店がないからといって、安心してはいけません。

特許情報プラットフォームにて、商標をウェブで簡単に検索することができますので、サービス事業を開業する際は、看板やチラシを作成する前に、商標登録がすでにされていなかを必ず確認するようにしてください。

(2)カスタマーハラスメント対応

サービス事業を経営している限り、お客様とのトラブルとは無縁ではいられません。
店舗内での転倒事故などお客様から損害賠償請求をされるケースもあります。

お客様からの正当な要望であれば、誠実に対応する必要があります。
しかし、最近では、カスタマーハラスメントといって、店員に対して大声で怒鳴ったり、土下座を要求したりなど、度を超えた要求を行ったりするケースもあります。

カスタマーハラスメントは一生懸命働いている従業員を傷つける許しがたい行為です。事業者としては、安全配慮義務として、カスタマーハラスメントを防止する義務があります。

カスタマーハラスメントに対する基本的な対応方針は以下のとおりです。

  1. 組織的に対応する必要があること
    ハラスメント行為への対応は、経営者が組織的全体として取り組んでいくべき問題です。経営者が、ハラスメントを組織として許さない姿勢であることを従業員に周知することも大切です。
  2. 初期対応が重要であること
    お客様の不適切な行為や過度な要求に対して、要求に応じたりすると、更なるハラスメントを誘発し、行為がエスカレートすることがあります。理不尽な要求には、初動の段階から毅然とした対応をすることが重要です。
  3. ハラスメント情報を共有し、1人で抱え込まないこと
    問題が起こった際は、会社全体で情報を共有し、被害を受けた従業員一人に対応させず、組織全体で対応する必要があります。

当事務所では、カスタマーハラスメント対応の支援も行っています。
早めにご相談をいただき、対処法をアドバイスしながら、適切な解決を図っていきます。問題の初期からご相談いただくことで、初動対応を誤ることなく、スムーズな問題解決に至ることがあります。
また、対応そのものを外部の専門家に任せることによって、本来の業務に専念することができます。
サービス業の経営者の皆さまは、ぜひ当事務所にご相談ください。

(3)従業員に関するリスク

従業員の不正

美容室や学習塾などサービス業の各店舗の運営においては、店長に大きな権限が与えられ、店長の裁量のもと営業を行っていくことがよくあります。
多店舗展開を進めていくうえでは、信頼できる店長にオペレーションを委ね、経営者は全体の経営に注力することになります。

信頼できる店長に大きな権限を与えること自体に問題はありませんが、任せきりになってしまうことにはリスクがあります。
経営者の気が付かないうちに、売上金の着服や商材の転売といった従業員の不正が起き、損失が発生しているかも知れません。

サービス業における典型的な不正の事例は以下のとおりです。
  • 一部の売上についてレジを通さず、受領した現金を着服する。
  • 領収書を偽造し、架空の経費精算をする。
  • 商材を持ち帰り転売する。
  • 仕入れ先から水増し請求をさせ、その一部をバックさせる。

従業員の不正については、なによりもまず不正が起きにくい仕組みを構築することが重要です。仕入れを本社部門で行うことや在庫を適宜把握すること、防犯カメラの導入などいずれも不正の防止には有効です。

不正は、機会、動機、正当化の要素が揃えば誰にでも起こりうると考えられています。
当事務所への相談事案でも、従業員の不正に関するものは、それになりの件数があります。
従業員の長期間にわたる不正は、経営に大きな影響を与えるばかりではなく、信頼できる従業員の裏切り行為は、経営者の精神的なダメージも大きいものです。
サービス事業の経営者は、不正が誰にでも起こりうることを前提に、それが発生しにくいシステムを導入することをご検討ください。

万が一、不正が発覚した場合は、まずは証拠を押さえることが重要です。
そのうえで、就業規則に基づく懲戒処分、民事上の損害賠償請求、刑事告訴等を検討することになります。

不正の対応は、慎重かつ迅速に進める必要があります。
当事務所は、従業員の不正事案に数多く対応した実績があります。
サービス業事業者の皆さまで、従業員の不正が発覚した場合は、ぜひご相談ください。

未払賃金請求

サービス業の店舗では、シフト勤務や変形労働時間制がとられていることが多く、それに対応する就業規則等の整備が必要になります。
また、慢性的な人手不足により、長時間労働が見過ごされている実情もあり、未払賃金が発生しやすい業界となっています。

特に注意が必要なのが、店長を管理職として取り扱い、残業代を支払わないという対応です。
労働基準法第41条の管理監督者に該当する場合は、残業代を支払う必要はありませんが、労働基準法が定める管理監督者は、経営者と一体的な立場にある者をさし、極めて狭く解釈されており、サービス業の店長の多くは、管理監督者に該当しません。

したがって、店長であっても適切な労務管理を行い、労働時間を把握したうえで、正当な賃金を支払う必要があります。

残業代計算における基本的な考え方は、以下のとおりです。
残業代 = 時間単価 × 残業した時間 × 割増率
時間単価の算出方法は、労働基準法施行規則に定められていますが、月給制の場合、月給を所定労働時間で割った金額になります。
次に、タイムカードや入退館記録などにより実労働時間を確定させます。実務上は、準備作業や後始末作業の時間、待機時間、移動時間などが労働時間に含まれるかが争点になります。
最後に、労働基準法上の割増率を確認し、残業代を計算することになります。
実務上は、専用ソフトを使用して、一覧表を作成して残業代を把握します。

具体的な請求の流れとしては、従業員側の代理人弁護士から内容証明郵便が事業者に届くことが一般的です。交渉がまとまれば、合意書を取り交わします。
交渉がまとまらなければ、従業員側から労働審判ないし民事訴訟が提起されます。

残業代請求訴訟において、主要な争点に労働時間があります。従業員側が主張する労働時間が、そもそも労務を提供していたのかという事実問題として争いになり、さらに、労働時間の始期・終期、残業禁止命令、残業承認制、休憩時間など、労働時間該当性という評価の問題として争いになることも多いです。
また、使用者側が、固定残業代や手当として支払っていると主張することも多いです。

残業代について誤った認識で運用を行っていた場合、突然従業員から莫大な金額を請求されるリスクがあります。
こうしたリスクを避けるためには、まず、事業者において、労働時間を把握し、管理することがなによりも重要になります。
また、固定残業代など事業主側が残業代を抑えるために導入した制度に不備があり、かえって未払賃金を増やしてしまうこともあります。

当事務所では、未払残業代の請求に対する事業者側の代理人として数多くの経験があります。残業代の請求を受けた場合は、ぜひご相談ください。

3.当事務所でサポートできること

当事務所の弁護士は、測定器メーカーに勤務経験があり、数多くの現場を実際に訪問した経験があります。

実際に現場を確認することで、課題を適切に解決することができました。
また、現場担当者すら気付いていない潜在的なニーズを把握し、提案型の営業をすることを心掛けていました。

当事務所のリーガルサポートにおいても、上記のような姿勢を大切にしています。

例えば、労働紛争事案においても、店舗側の事情やトラブル発生の経緯をヒアリングしながら事実関係をしっかりと把握し、丁寧な事案対応を心掛けています。また、ヒアリングの結果、見えてきた周辺の課題について、予防法務の観点から整備を行うこともあります。

このように、当事務所では、経営者、担当者の方とコミュニケーションを密にとりながら、企業の置かれた状況において、最良の手段を講じつつ、トラブルが生じるリスクそのものを下げるための予防法務にも力を入れております。

当事務所で対応可能な法的支援は多岐にわたりますが、主な支援内容は以下のとおりです。

  • ハラスメント対応
  • パワハラなどの労働紛争
  • 未払残業代請求
  • 解雇をめぐる紛争
  • 訴訟対応
  • 就業規則等の社内規定整備
  • 懲戒手続等のサポート
  • 各種契約書作成・リーガルチェック
  • フランチャイズ契約に伴うトラブル対応
  • 債権回収
  • 商業登記
  • 事業承継・M&A
  • 株主調査・管理支援
  • 会社分割・合併等の組織再編