1.不動産業の皆さまへ
不動産の取引には、以下のような特徴があります。
不動産は、通常高額で、すべて条件が異なります。一般に不動産業以外の方は、不動産取引について専門的な知識を持ち合わせておらず、これは個人に限らず、企業にとっても同様です。
また、不動産取引では、取引物件の権利関係、占有状態、土地境界の確認等が重要ですが、これを正確に把握することは専門的知識がないと非常に難しいです。権利関係を十分確認せずに物件を買い受けたところ、当該物件に第三者の権利が設定されていたり、土地境界が曖昧であったために処分することができないなど不測の損害が生じることがあります。
さらに、不動産取引には、特有の手順があり、他の取引と比べるととても複雑です。不動産売買では、現地確認、物件調査、登記簿の確認、価格査定、取引条件の交渉、資金計画と融資手続、重要事項説明書の交付・説明、契約書の作成締結、所有権移転登記手続などの手順を段階的に踏んで、取引完了にいたりますが、このような手続を、一般の方が専門家の支援なしに滞りなく行うことは難しいでしょう。
このような不動産取引の特徴から、不動産取引に慣れていない一般の売主・買主に対し、不動産業者が専門的知識と経験を活かして不動産取引に関する情報を提供して取引を円滑に進めることになるのですが、物件の瑕疵、土壌汚染、説明義務違反など不動産取引についてさまざまな紛争が生じており、不動産業は法的トラブルの発生するリスクが極めて高い業界であるといえます。
そこで、不動産会社の顧問弁護士として活動してる弁護士が、これまで経験した事例を踏まえて、不動産業特有の法的リスクについて解説します。
2.不動産業特有の法的リスク
(1)各業態の特徴と規制法令
不動産業とは、不動産開発業、不動産流通業、不動産賃貸業、不動産管理業など多くの業態を含みます。
各業態の特徴と規制法令は以下のとおりです。
不動産開発業とは、農地・山林等を取得し宅地造成工事を行って完成宅地を分譲したり、戸建てやマンションを建設・分譲することを業とすることをいいます。
この事業に従事する業者は、開発業者、マンション業者などと呼ばれ、大規模な開発分譲業者はディベロッパーと呼ばれます。
不動産売買のうち宅地建物の売買を業とする行為は、宅地建物取引業に該当し、宅建業法の規制を受けることになります。
不動産流通業(仲介業)とは、不動産の売買・賃貸借の仲介、建売住宅・分譲マンションの販売代理を業とすることをいいます。仲介業務に従事する業者を仲介業者といいます。不動産のうち宅地建物の売買・賃貸の仲介を業とする行為は、宅地建物取引業に該当し、宅建業法の規制を受けることから、これを営もうとする者は、国土交通大臣又は都道府県知事の免許を受ける必要があります。
不動産賃貸業とは、アパート・マンション等の住宅賃貸業、テナント等の事業用物件の賃貸業、土地の賃貸業をいいます。不動産賃貸業における貸主と借主との契約関係については、借地借家法等が適用されます。
不動産管理業とは、賃貸住宅や事業用ビルの管理業などをさします。宅地建物の管理業は、宅建業法の宅地建物取引に含まれず、同法の適用の対象外になります。
(2)不動産仲介業の法的リスク
重要事項説明をめぐる紛争
宅建業者はさまざまな義務を負っていますが、なかでも重要なのが宅建業法第35条に規定されている重要事項の説明です。
不動産取引をめぐる紛争では、宅建業者の調査義務及び説明義務違反に関する紛争がとても多くなっています。
紛争の原因としては、①基本的な調査を怠ったもの、②重要事項について説明を怠った又は説明が不十分だったもの、③誤った説明をしたものなどがあります。
宅建業者が売主である場合、買主が民事上の責任を宅建業者に追及するケースとしては、民法第95条の錯誤取り消しを主張するパターンが典型です。
具体的な裁判例は、以下のとおりです。
- 知事の許可を得る見込みがなく、買主が工場を建てることができなかった事案について、裁判所は、契約締結に際し、売主に買主の土地の使用目的の動機が表示されており、土地を買い受けるとの買主の意思表示は、その要素に錯誤があるとして、売買契約を無効と判断しました。
- 買主は、建物建築のために土地を買い受けましたが、土地の擁壁に亀裂が生じ、宅地造成等規制法施行令の基準を満たさず、安全な建物を建築するためには本件擁壁を全面的に補修する必要があり、契約締結当時に買主において予想し得なかった多額の費用が要することになった事案について、裁判所は、買主は、本件土地上にそのままでは安全に建物を建てることができなかったのに、建てられるものと誤信していたものであり、売買の目的物の性状に要素の錯誤があるとして無効と判断しました。
- 買主は、宅地造成後に転売する目的で本件土地を買い受け、本件土地に隣接する道路が建築基準法42条2項に規定する道路で建築が可能であるとの説明を信じて契約を締結したが、2項道路ではないので、現状のままでは建物を建築することができないことが判明した事案において、裁判所は、買主は前記説明を誤信して本件売買契約を締結したものであり、その買受の意思表示には動機に錯誤があるところ、売主もこれを了知していることから、買主の意思表示には要素の錯誤があり無効と判断しました。
このような紛争を回避するためには、宅建業者が売買等の契約締結に先立って、事前に取引物件の権利関係等を十分調査し、買主に重要事項に関して必要な情報を正確に提供することが必要となります。買主が、不利な情報も含めてこれを理解したうえで、契約を締結することになれば、このような紛争は生じないと考えます。
宅地建物取引士賠償責任保険
宅地建物取引士が説明義務違反等によって損害賠償責任を負う場合、ケースによっては、賠償額が非常に高額になることがあり、事業の継続に大きな影響を与えることもあります。
宅地建物取引士賠償責任保険は、宅地建物取引業法の第35条及び第37条に規定する業務に起因して、宅地建物取引士が法律上の賠償責任を負担することによって被る損害を塡補するための保険です。
注意義務を尽くして、不動産取引における紛争が発生しないように細心の注意を払うことは当然ですが、万が一に備えて、賠償責任の保険に加入することは、事業を継続する上で必須だと考えます。損害保険会社から、宅地建物取引士向けの保険が提供されていますので、ぜひ加入することをお勧めいたします。
ただし、免責事項が多岐にわたる場合がありますので、保険が適用される範囲について、約款を確認しておくことが重要です。
(3)不動産賃貸業の法的リスク
賃料の滞納
賃料の滞納は、不動産のオーナー様にとって常に生じる問題であり、最も身近な法的リスクといえます。家賃滞納を放置しておくと、滞納額が膨れあがり、回収が著しく困難になります。当事務所で担当した事案では、滞納額が100万円を超えるケースもあり、そうなると相手方に資力がない状態では、回収が非常に難しくなります。
滞納賃料回収のポイントは、家賃滞納が始まったら直ちに回収に着手することです。具体的な方法としては、以下のように行います。
- 文書により支払を促す
- 弁護士名で内容証明郵便を送付し、支払を促す
- 訴訟・支払督促などの法的手続により債務名義を取得する
- 債権執行などの強制執行手続をする
なお、2020年4月1日以降の連帯保証契約においては、極度額の設定が必要になりました。賃貸借契約書の連帯保証人の記載欄にも極度額の設定を記載しておく必要があります。
また、賃料の滞納状態が解消されない場合は、賃貸物件の明渡を求めることを検討する必要があります。明渡しを求める手続は以下のように行います。
- 内容証明郵便を送付し、賃料不払いを理由に賃貸借契約を解除する
- 任意の明渡しを求める。
- 応じない場合、明渡請求訴訟を提起
- 債務名義を取得し、強制執行手続をする
当事務所では、滞納賃料の回収事案を数多く手掛けております。お困りの不動産オーナー様は、ぜひご相談ください。
物件の老朽化に伴う事故
アパートやマンションなどにおいて、物件の老朽化に伴い、水道管が破損して漏水事故が発生するケース、貯水タンクに不具合が生じるケースがよくあります。
漏水事故などが発生した場合、当該部屋の給水設備を修理だけでは済まないことがほとんどです。階下の部屋に水が染みだし、家財や壁紙、カーペットなどが水浸しになり、高額な賠償額になるケースがあります。
貯水タンクの不具合の場合でも、水質の影響は全戸におよぶことがあります。
賃借人との間で、賠償交渉を進めていくことにありますが、その際、損害賠償の範囲や算定方法が争点になることがあります。
当事務所で担当した事案では、高価なカーペットの価値の算定方法、現状回復工事の内容、店舗が休業した場合の営業損害など、賠償額の算定にあたって複雑な交渉を行った事例があります。
賃貸物件の事故が発生した場合、迅速に適正な賠償を行う必要があり、誠実な対応を行うことが重要になります。しかし、なかには、本来賠償に含まれないものなど過大請求されるケースもあり、毅然と対応することが必要な場合もあります。
損害賠償の交渉には、法的な知識が必要となります。当事務所では、賃借人に対する賠償交渉に多数の実績がありますので、遠慮なくお問い合わせください。
賃借人の死亡
高齢化社会の進展により、入居者が高齢であることも多くなっています。
入居者が死亡した場合、賃貸借契約上の賃借人の地位は相続人に承継されます(民法第896条)。賃借人の死亡により賃貸借契約が当然に終了しないことに注意が必要です。
不動産オーナー様は、賃借人が死亡した場合、相続人が存在するのかを調査し、相続人が賃貸借契約の継続を希望するのか、しないのかを確認する必要があります。
相続人が賃貸借契約の継続を希望しない場合には、賃貸人は、相続人との間で賃貸借契約を合意解約する必要があります。
(4)不動産登記
不動産取引には、不動産登記手続が必要となります。
登記に必要な申請書と書類を法務局に提出し、登記官が申請内容を確認したうえで、登記簿に新しい情報が登記されることになります。
なお、令和6年4月1日から、相続登記の申請が義務化されます。
これまで、相続登記に関するきまりはなく、登記がされないこともありました。例えば、遺産分割協議が整わなかったり、相続した土地の価値が低い場合など、費用をかけてまで相続登記をするメリットが乏しく、登記がなされないまま長期間経過するケースがあり、次の相続が生じるなどして、所有者不明土地が発生する状況が多発していました。このような事態を解消するため、相続登記が義務化されることになりました。
これにより、相続や遺言により不動産を取得した相続人は、不動産を取得したことを知った日から3年以内に、登記の申請をしなければならなくなります。
正当な理由なく申請をしなかった場合には、過料が科されることがあります。
当事務所では、不動産登記、相続登記を多数取り扱っております。賃貸物件を相続した場合など、個々の事情に応じて必要な手続をご案内させていただきますので、遠慮なくお問い合わせください。
3.当事務所でサポートできること
当事務所の弁護士は、測定器メーカーに勤務経験があり、数多くの現場を実際に訪問した経験があります。
実際に現場を確認することで、課題を適切に解決することができました。
また、現場担当者すら気付いていない潜在的なニーズを把握し、提案型の営業をすることを心掛けていました。
当事務所のリーガルサポートにおいても、上記のような姿勢を大切にしています。例えば、不動産取引のトラブル等においても、業界の事情や物件の特徴等をヒアリングしながら事実関係をしっかりと把握し、必要に応じて、実際に訪問し、物件を実際に見せていただくこともあります。そうすることで、ポイントを押さえた事案対応が可能になります。
このように、当事務所では、経営者、不動産物件のオーナー様とコミュニケーションを密にとりながら、依頼者の置かれた状況において、最良の手段を講じつつ、トラブルが生じるリスクそのものを下げるための予防法務にも力を入れております。
当事務所で対応可能な法的支援は多岐にわたりますが、主な支援内容は以下のとおりです。
- 滞納賃料回収交渉・訴訟
- 物件明渡し交渉・訴訟
- 不動産競売申立
- 不動産訴訟対応
- 相続事案への対応
- 不動産登記
- 商業登記
- 事業承継・M&A