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1.介護事業者の皆さまへ

高齢化社会の伸展に伴い、介護事業の需要が高まっており、全国には多くの指定介護事業所があります。福井県内にも数多くの介護事業者が存在します。

介護保険法に基づく介護保険サービスは、居宅サービス、施設サービス、地域密着型のサービスがあり、そのなかでさらに細かくサービスが区分されています。

まず、介護事業を行うにあたっては、都道府県や市町村などから、それぞれの介護サービス事業ごとに指定を受ける必要があります。介護事業を遂行するにあたっては、指定サービスごとに設けられた設備及び運営基準等の指定基準を充足しなければなりません。監査の結果、指定基準違反が認められると、指定の取り消しや指定の効力停止の処分に繋がることもあります。

また、介護事業においては、利用者の生命や身体に影響する業務が数多く存在することから、行政による監督の目も厳しく、さらに利用者の家族からもたいへん厳しい目が注がれています。

このように、介護業は、特に法令遵守が強く求められる業種であり、介護事業者が事業を安定的に継続するに当たっては、介護保険法はもとより、各種法令を遵守する姿勢が非常に重要になります。

多くの介護事業所においては、法令遵守や安全に対して強く意識して、日々の業務に奮闘しておられます。

しかしながら、慢性的な人手不足により目先の仕事に忙殺されるあまり、従業員の隅々にまで法令遵守の意識が浸透していないこともあります。また、利用者の家族との間で、トラブルが発生した場合に、これを合理的に解決する方策を持ち合わせていないことが多いのも実情です。

そこで、介護事業者の顧問弁護士として活動している弁護士が、これまで経験した事例を踏まえて、介護事業者特有の法的リスクについて解説します。

2.介護業特有の法的リスク

(1)介護事故にともなうリスク

介護事故の報告義務

「職員が巡回したところ、利用者がベッドから転落しており、大腿骨骨折生じた」

「利用者が落としたものを拾おうと、職員が一瞬目を離した際、利用者が転倒し、急性硬膜下血腫が生じた」

「入れ歯を誤飲したため窒息状態となり、低酸素脳症を発症した」

上記のような介護事故はしばしば発生しています。

特に高齢者施設では、転倒事故の発生率が高く、骨粗しょう症により骨が脆くなっているために、軽い転倒により大腿骨骨折に至るケースが数多くあります。

介護事故が発生した場合、事業者は市長等に報告を行う義務があります。福井県では、「介護保険事故発生時における報告取扱要領」において、報告すべき事故の範囲、報告手順、報告様式等が規定されています。

そして、介護事故の原因が、指定基準違反が原因であったような場合は、行政上の処分が行われることがあります。

介護事故の報告は、介護保険法上の法律上の義務ですので、介護報告をしないと行政指導の対象となります。報告の遅れが生じないように、介護事業者は、介護事故発生時の対応をマニュアル化し、組織としての対応策を日常から構築しておく必要があります。

また、介護事故により利用者が負傷又は死亡した場合、担当職員などが、業務上過失傷害罪または業務上過失致死罪等の刑事上の責任を負うこともあります。

その場合、事業所として管理体制等に過失が存在する場合は、事業所の代表取締役や施設長にも業務上過失致死傷罪が成立することもあります。

損害賠償責任

介護事故が発生すると、介護事業者は、民法第415条の債務不履行責任、及び、民法709条及び民法715条の不法行為責任を負うことがあります。

債務不履行責任とは、介護事業者は、利用者との介護サービス利用契約に基づき、利用者に対して介護サービスの提供義務を負っているところ、その前提として、利用者の生命・身体の安全に配慮したサービスを提供するという安全配慮義務を負っています。

介護事故の発生について、介護事業者の安全配慮義務違反が認められると、介護事業者は介護事故と相当因果関係のある損害について、損害賠償義務を負うことになります。

次に、不法行為責任とは、担当職員に過失が認められる場合に、職員は民法709条により、過失と相当因果関係のある損害について、損害賠償責任を負うことになります。

そして、職員に不法行為が成立する場合には、業務中の事故であれば、事業所にも民法第715条の使用者責任が成立することになり、事業者も損害賠償責任を負うことになります。

介護事故における損害賠償事案の主な争点は、過失の成否及びその程度となります。

転倒事故のケースで見てみると、利用者が、転倒する可能性が高いことを施設が認識していたか、もしくは、認識することができたかがポイントになります。

すなわち、介護事業者が、利用者が歩行中に転倒してもおかしくない状態であったとこととを認識していたとすると、介護事業者にとって転倒事故を予見することが可能であったと判断されることになります。そのうえで、介護事業者は、利用者が歩行する際、可能な範囲内において、歩行介助や近接した位置からの見守り等、転倒による事故を防止するための適切な措置を講じる義務があったのに、これを怠ったとして、施設側の責任が認定されることになります。つまり、過失の成否については、予見可能性と程度が重要なポイントになります。

なお、事業者側に過失が認められたとしても、利用者側にも落ち度がある場合は、過失相殺が認められるケースもあります。

例えば、職員が、利用者に対し、トイレにいく際は、ナースコールを利用するよう繰り返し指導していたにもかかわらず、利用者がこれを怠り、1人でトイレに行ったところ、転倒した場合に、利用者側に3割を認定し、過失相殺を行った裁判例もあります。

もっとも、利用者の認知症が進んでおり、精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く状況にある場合は、過失相殺の前提を欠くことになり、過失相殺は認められないことに注意が必要です。

なお、債務不履行責任と不法行為責任は、法的構成が異なるものの、立証の難易度に大差はありません。

すなわち、事故の発生を予見することができ、その事故を回避することができたにもかかわらず、回避措置を講じなかったと評価される場合には、債務不履行責任を基礎づける安全配慮義務違反と不法行為責任上の過失のいずれも認められることにあり、どちらの法的構成によっても、賠償責任が認められることになります。

当事務所では、介護事故の賠償事案について、施設側の代理人として多数手掛けております。介護事故における法的主張は多岐にわたり、非常に複雑ですので、経験が重要です。介護事故が発生した場合には、ぜひ当事務所にご相談ください。

事業者賠償責任保険

介護事故によって、介護事業者が損害賠償責任を負う場合、損害の主な費目としては、治療費、入通院慰謝料、後遺障害(または死亡)慰謝料、逸失利益などになります。

ケースによっては、賠償額が数千万円にのぼることもあり、介護事業者の事業の継続に大きな影響を与えることもあります。

事業者賠償責任は、介護事業者が、偶然の事故によって、第三者に対する法律上の賠償責任を負担した場合に、その損害を塡補する保険です。

介護事故が発生しないように細心の注意を払うことは当然ですが、万が一に備えて、賠償責任の保険に加入することは、事業を継続する上で必須だと考えます。損害保険会社から、介護事業者向けの保険が提供されていますので、ぜひ加入することをお勧めいたします。

(2)介護サービスに伴うリスク

施設利用料の滞納

介護サービス利用料の滞納は、どの介護事業者にとっても生じる問題であり、最も身近な法的リスクといえます。通所の介護サービスであれば、自己負担分の滞納額はそれほど大きな金額にならないことが多いですが、介護老人福祉施設サービスなどの滞在型になると、居住費、食費、日常生活費等が発生することから、滞納額が高額になることもしばしばあります。

利用料の滞納が発生する原因のひとつに、家族による使い込みがあります。当事務所が対応した事例でも、年金の振り込まれる通帳を親族が管理しており、親族が自身の遊興費に費消したために、利用料の支払いができなくなったという事案がありました。

滞納した利用料を回収する手続は、以下のように行います。

  1. 文書により支払を促す
  2. 弁護士名で内容証明郵便を送付し、支払を促す
  3. 訴訟・支払督促などの法的手続により債務名義を取得する
  4. 債権執行などの強制執行手続をする

なお、2020年4月1日以降の連帯保証契約においては、極度額の設定が必要になりました。介護サービスの利用契約書の連帯保証人の記載欄にも極度額の設定を記載しておく必要があります。

また、本人に意思能力がないケースにおいて、家族による使い込みが発覚した場合では、本人の福祉の見地から、成年後見の申立てを検討することがあります。

裁判所で選任した後見人に事情を引き継ぎ、後見人によって回収をすすめるとともに、本人の財産を適切に管理することによって、今後の滞納を防ぐことが可能になる場合があります。

当事務所では、滞納利用料の回収事案を数多く手掛けております。滞納利用料でお困りの介護事業者様は、ぜひご相談ください。

職員に対するカスタマーハラスメント

介護現場におけるハラスメントには、以下のようなものがあります。

身体的暴力 「殴る、蹴る」、「コップを投げつける」、「つばを吐く」

精神的暴力 嫌がらせをする、理不尽な要求をする

セクシュアルハラスメント 身体的接触、意に沿わない性的嫌がらせ行為

そもそも介護サービスは、1対1の状況になることが多いこと、女性職員が多いこと、サービス提供時に身体的な接触をともなうこと、利用者の認知機能の低下などの要因があり、ハラスメントが起こりやすい状況にあるといえます。

しかし、ハラスメントは、大切な従業員を傷つける行為です。志をもって介護職を選び、毎日懸命に介護業務に従事する従業員の精神及び身体を傷つける許されない行為です。悪質なものであれば、刑法上の暴行罪、傷害罪、脅迫罪、強制わいせつ罪等の犯罪行為に該当するものもあります。

介護事業者にとって、慢性的な人材不足の中、ハラスメントを受けた従業員がケガや病気になり退職に至ることは大きな痛手となります。また、介護事業者は安全配慮義務を負っていることから、その責務として、利用者やその家族のハラスメント行為から従業員を守る必要があるのです。

ハラスメント行為への対応の基本的な考え方は以下のとおりです。

  1. 組織的に対応する必要があること
    ハラスメント行為への対応は、介護事業者が組織的全体として取り組んでいくべき問題です。マニュアル等の作成や相談窓口の設置が重要となります。
    また、介護事業者が、ハラスメントを組織として許さない姿勢であることを利用者や家族に周知することも大切です。利用契約締結の際に利用者や家族に対して、事業者の方針を説明することがハラスメントを予防する効果があります。
  2. 初期対応が重要であること
    利用者や家族の不適切な行為や過度な要求に対して、要求に応じたりすると、更なるハラスメントを誘発し、行為がエスカレートすることがあります。理不尽な要求には、初動の段階から毅然とした対応をすることが重要です。
  3. ハラスメント情報を共有し、1人で抱え込まないこと
    問題が起こった際は、施設全体で情報を共有し、被害を受けた職員を担当変更するなど適切な対処をする必要があります。

当事務所では、ハラスメント対応の支援も行っています。施設の担当者から早めにご相談をいただき、対処法をアドバイスしながら、適切な解決を図っていきます。問題の初期からご相談いただくことで、初動対応を誤ることなく、スムーズな問題解決に至ることがあります。

また、職員が対応に疲弊している場合などは、事案のご依頼をいただき当事務所が対応の窓口になることも可能です。対応そのものを外部の専門家に任せ、本来の介護業務に専念することができます。

ハラスメント問題でお困りの介護事業者様は、ぜひ当事務所にご相談ください。

(3)従業員に関するリスク

従業員がうつ病に罹患した場合

介護の現場は、夜間勤務が必要な場合も多く、生活が不規則になりがちです。また、人と対峙する業務であり、前述のとおり、利用者や家族からのハラスメント対応などでストレスがかかることも多く、従業員がうつ病等の精神疾患に係ってしまうケースがあります。

うつ病の原因が、長時間労働や事業所内でのハラスメントなど業務に起因する場合は、介護事業者が安全配慮義務違反などに問われ、賠償義務を負う可能性があります。

また、労働基準法第19条は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のため休業する期間又はその後30日間は、解雇をしてはならないと規定していますので、事業所は、その従業員を解雇することはできません。

うつ病は、一般的に回復まで6~7か月程度要するとされています。半年程度の休業期間を経て、医師の診断書を提出してもらい、寛解状態を確認したうえで、職場復帰の支援をしていくことになります。

なお、多くの事業所では、就業規則に「半年間の休職期間を経ても就業可能なまでに治癒しなければ自然退職とする」などの自然退職規定が設けられています。

うつ病の発症原因が、私病であれば、上記規定に基づき自然退職扱いとすることも可能です。

しかし、うつ病が業務に起因するものである場合は、就業規則の自然退職規定に基づく退職扱いをしても、労働基準法19条に反して無効になります。その場合、労務が提供されていない期間も含めて賃金の支払義務(バックペイ)が発生することから事業所にとっては多額の金銭を支払うことになる可能性があります。

なお、うつ病等の精神疾患は、複合的な要因で発生することから、その原因が良く分からないことがあります。また、従業員がうつ病の原因は仕事のせいだと主張し、事業者側はそのような事実はないとして、言い分が食い違うことも良くあります。

このように業務に起因するかどうかの判断ができない場合は、労災申請をまず行い、労災認定もしくは不支給決定を待ってから、対応を判断するのが合理的です。

未払賃金請求

介護現場では、シフト勤務や変形労働時間制がとられていること、休憩時間にも利用者の緊急対応する必要があること、業務上必要な外部研修、訪問介護での利用者宅への移動時間などの要素があり、労働時間の正確な把握が難しい状況があります。また、慢性的な人手不足により、長時間労働が見過ごされている実情もあり、未払賃金が発生しやすい業界となっています。

残業代計算における基本的な考え方は、以下のとおりです。

残業代 = 時間単価 × 残業した時間 × 割増率

時間単価の算出方法は、労働基準法施行規則に定められていますが、月給制の場合、月給を所定労働時間で割った金額になります。

次に、タイムカードや入退館記録などにより実労働時間を確定させます。実務上は、準備作業や後始末作業の時間、待機時間、移動時間などが労働時間に含まれるかが争点になります。

最後に、労働基準法上の割増率を確認し、残業代を計算することになります。

実務上は、専用ソフトを使用して、一覧表を作成して残業代を把握します。

具体的な請求の流れとしては、従業員側の代理人弁護士から内容証明郵便が事業者に届くことが一般的です。交渉がまとまれば、合意書を取り交わします。

交渉がまとまらなければ、従業員側から労働審判ないし民事訴訟が提起されます。

残業代請求訴訟において、主要な争点に労働時間があります。従業員側が主張する労働時間が、そもそも労務を提供していたのかという事実問題として争いになり、さらに、労働時間の始期・終期、残業禁止命令、残業承認制、休憩時間など、労働時間該当性という評価の問題として争いになることも多いです。

また、使用者側が、固定残業代や手当として支払っていると主張することも多いです。

残業代について誤った認識で運用を行っていた場合、突然従業員から莫大な金額を請求されるリスクがあります。こうしたリスクを避けるためには、まず、事業者において、労働時間を把握し、管理することがなによりも重要になります。

また、固定残業代など事業主側が残業代を抑えるために導入した制度に不備があり、かえって未払賃金を増やしてしまうこともあります。

当事務所では、未払残業代の請求に対する事業者側の代理人として数多くの経験があります。残業代の請求を受けた場合は、ぜひご相談ください。

3.当事務所でサポートできること

当事務所の弁護士は、測定器メーカーに勤務経験があり、数多くの現場を実際に訪問した経験があります。

実際に現場を確認することで、課題を適切に解決することができました。

また、現場担当者すら気付いていない潜在的なニーズを把握し、提案型の営業をすることを心掛けていました。

当事務所のリーガルサポートにおいても、上記のような姿勢を大切にしています。

例えば、介護事故事案においても、施設側の事情や事故発生の経緯をヒアリングしながら事実関係をしっかりと把握し、実際に訪問し、介護現場を見せていただくこともあります。そうすることで、ポイントを押さえた事案対応が可能になります。また、見えてきた周辺の課題について、予防法務の観点から整備を行うこともあります。

このように、当事務所では、経営者、担当者の方とコミュニケーションを密にとりながら、企業の置かれた状況において、最良の手段を講じつつ、トラブルが生じるリスクそのものを下げるための予防法務にも力を入れております。

当事務所で対応可能な法的支援は多岐にわたりますが、主な支援内容は以下のとおりです。

  • ハラスメント対応
  • パワハラなどの労働紛争
  • 未払残業代請求
  • 解雇をめぐる紛争
  • 介護事故対応
  • 訴訟対応
  • 就業規則等の社内規定整備
  • 懲戒手続等のサポート
  • 各種契約書作成・リーガルチェック
  • 債権回収
  • 商業登記
  • 事業承継・M&A
  • 株主調査・管理支援
  • 会社分割・合併等の組織再編