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1.製造業の皆さまへ

福井県の事業所数は約4万あり、人口1000人当たりの事業所数を都道府県別に見ると、全国1位となっています。

そのうち、製造業の割合は12.0%となっており、産業全体における製造業の割合の高さは全国2位です。

福井県の産業といえば、繊維産業、メガネ産業が全国的に知られていますが、それだけではなく食料品、パルプ、半導体関連、精密機械、鉄鋼業など多種多様な業種にわたり多数の企業が県内に存在しています。

また、製造業に携わる従業員数は、全産業の従業員数の21.8%となっており、産業分野別でもっとも高くなっています。(引用令和3年経済センサス)

このように福井県には、製造業に関わる企業が数多くあります。
しかしながら、県内の製造事業者には、特定の注文主からの仕事に依存している企業も多く、その場合、注文主側の企業が、中小の製造事業者の法的な課題についても事実上解決を支援してきた実情もあるようです。

そのため中小の製造事業者においては、法的リスクについて合理的に解決する方策を持ち合わせておらず、そもそも製品事故や企業間紛争が発生した場合の損害の甚大さすら理解していないことも多いように思います。

そこで、多くの製造業者の顧問弁護士として活動している弁護士が、これまで経験した事例を踏まえて、製造事業者特有の法的リスクについて解説します。

2.製造業特有の法的リスク

(1)製品に関するリスク

規制法令について

食品、電子部品、家具、電機製品、医薬品など、企業で製造される製品は、世に出て、何らかの形で消費者と関わりを持ちます。
消費者は、製品の品質や安全性に多大な関心を有しており、万が一、製品に品質不正や安全性の欠陥が発生すると、大きな社会問題に発展し、企業に回復不可能な莫大な損害をもたらすリスクがあります。

まず、製造物を規制する法律の代表的なものに、製造物責任法があります。
製造物に設計上・構造上の欠陥があった場合、事業者に事実上の無過失責任を負わせ、消費者が製造業者に直接損害賠償請求を可能にした民法の特別法です。その他、食品衛生法、薬事法などにも規制があり、規制違反には厳しい罰則が科される場合があります。

さらに、製造物の安全性に問題がない場合であっても、原産地や原料の表示が偽装されると、製品に対する信頼性が害されることから、表示に関するさまざまな規制も存在します。不正競争防止法、食品衛生法などに各種の規制があり、違反すると罰則が科されます。

コンプライアンス体制の構築

製品の安全性を確保するためには、コンプライアンス体制の確立が重要となります。

もっとも、製造現場では、ラインを停止させることなく効率的に製造することが最優先事項とされているのが現状で、規制を遵守することが後回しになってしまう危険が恒常的に存在します。

製造現場を管理する視点としては、現場では効率性が優先される危険があることを常に念頭に置きつつ、製造現場から独立した監理部等の部署が性悪説に立って、監視の目を光らせる必要があります。

また、不正が現場で実際に発生した場合に、これを上層部が速やかに把握する体制を構築することも重要です。
2006年4月1日に公益通報者保護法が施行されました。同法は、公益通報者の保護ともに、内部通報により企業が不正を早期に発見し、自浄作用を働かせることによって、損害の拡大を防止することを目的としたものです。これを受けて、企業においても「ヘルプライン」、「ホットライン」などの名称で通報制度を設けているところが多くなっています。

当事務所では、制度の設計・導入支援のみならず、複数の企業の外部通報窓口業務も行っております。導入をご検討の方は、ぜひご相談ください。

PL保険の活用

製造物の安全性に欠陥があった場合、製造事業者が億単位の損害賠償義務を負担するケースもあります。

このような製品事故に備えて、製造業者では、通常、生産物賠償責任保険(PL保険)に加入しています。しかしながら、「保険金が支払われると思っていたのに支払われなかった」と慌てることにならないように、適用範囲に注意を払うことが大切です。

一般的に支払の対象となるのは、損害賠償金、賠償責任に関する争訟費用(弁護士費用)、損害防止費用等であり、リコールによる回収費用は補償されません。

もっとも、最近は、これまで適用されなかったリコール費用、コールセンター設置費用、不良在庫廃棄費用等をカバーする保険もありますので、ぜひ保険約款を確認しておくことをお勧めします。

(2)契約・取引に関するリスク

契約書作成の意義は、権利義務の発生及びその内容を明確にし、さらに、交渉担当者以外の者への証明手段を残すことにあります。そして、後日、契約当事者間に取引上のトラブルが生じた場合には、契約書が解決の指針になり、紛争を予防する機能を果たします。
このように契約書は企業法務の基本となる重要なものですが、残念ながら中小企業においては、契約書の重要性や契約書に潜むリスクを理解しておらず、そのために取り返しのつかない損害が発生するおそれがあります。

製造委託契約書

注文主が大手企業の場合、分厚い製造委託契約書を相手方から提示され、押印を求められることが通常です。
提示された契約書について、対案提示や修正を検討することなく、そもそも契約書を読むことすらせず、相手方の提案を丸呑みしている企業も少なくありません。

しかし、契約書の重要性に照らすと、製品の仕様や代金、原材料の仕入れに関する条件など事前の交渉内容が適切に契約書に反映されているかを確認することが不可欠です。
その他、注意すべき点として、大手企業が注文主となる場合に、情報漏洩の観点から厳しい情報管理が課せられたうえ、事実上他の会社との取引が禁止されている場合もあります。
さらに、取引終了後にも著しく長期の部品供給義務が課せられていることもあります。

コンサルティング契約

最近、相談が多い事例として、販路開拓、生産性の改善、求人広告などさまざまな名目でコンサルティング契約を締結させられ、高額な代金を支払わされる事例があります。

期待どおりの成果が上がらず、相手方に苦情の申入れをすると成果を保証するものではないと言われ、解約しようとすると年単位の代金を一括払いするよう要求されることもあります。

当事務所で対応した事案の中には、提供されたサービスの内容が杜撰であり、詐欺に近いようなものも散見されます。弁護士が介入し、相手方の企業と交渉の結果、代金の支払を免れることができたケースもありますが、ひとたび契約書を締結している以上、これを白紙に戻すことは極めて困難です。

相手方から示される契約書は、ほとんどの場合、相手企業に有利な条項が盛り込まれています。弁護士が契約書をリーガルチェックする場合は、依頼者にとって不利な条項はないか、不利益をこうむる程度は許容範囲かを確認し、依頼者にリスクを把握してもらったうえで、必要に応じて修正条項を提示します。当事務所では、顧問先企業の契約書のリーガルチェックを日常的に行っており、豊富な実績があります。取り返しのつかない事態になることを予防するためにぜひ弁護士をご活用ください。

秘密保持契約

コンピュータやインターネットを利用するようになり、企業は膨大な情報をやり取りし、保管できるようになりました。電子データは、紙媒体などの有体物に比べ複製や持ち出しが容易であることから、最近、企業にとって重要な情報が第三者に漏洩してしまうという事態が多発しています。

不正競争防止法では、窃盗、詐欺、強迫その他の不正の手段により営業秘密が取得されるなどの被害にあった場合、差止・損害賠償請求の対象となります。

不正競争防止法の営業秘密として、保護されるためには、秘密管理性、有用性、非公知性の3つの要件を満たす必要があります。

まず社内において、営業秘密の管理体制を構築することが重要となりますが、中小企業においては、管理が不十分であることが多いのが実情です。

営業秘密の管理体制の構築では、就業規則の整備、営業秘密管理規定の制定、従業員の入社時や退社時に秘密保持誓約書の取得、外部からの工場見学時に秘密保持契約書の取得などが必要になります。当事務所では、各種書式について雛形を取りそろえていますので、お問い合わせください。

また、製造業においては、企業が他社と共同開発するようなケースも増えています。中小企業が大手企業から共同開発を持ちかけられた場合、それを契機に、中小企業が独自に開発した成果が大手企業にわたってしまうリスクがあります。これを防ぐためには、取引先との間で秘密保持契約(NDA)を締結することが大切です。業務委託契約や業務提携契約の中で秘密保持条項を設けることもありますし、それらの契約とは別個に秘密保持契約書を取り交わすこともあります。

秘密保持契約書においては、秘密情報の定義をどのように定めるかが重要になります。「秘密である旨を指定した情報のみを秘密情報とする」場合や「原則的に当事者間で授受された一切の情報を秘密情報とする」場合があります。

具体的な契約書の記載方法については、当事務所にお問い合わせください。

(3)従業員に関するリスク

製造業では、深刻な人手不足が常態化しています。その理由として、労働人口の減少や働き方の多様化に対する遅れなどがあげられています。中小企業は、人材の確保のために、シニア人材や外国人の雇用、派遣社員の雇用などあらゆる手段を講じているのが現状です。

採用活動の増加に伴って、職人気質で口数が少なく黙々と仕事をこなすというイメージとはかけ離れた従業員の割合も増えています。

権利意識が強く何かにつけて書面を要求する従業員、上司の指導に対して親が苦情を申し入れてくるケース、入社の1週間後に退職代行業者から退職届が郵便で届くケースなど、従来ではおよそ考えられない事例も生じています。

これに対して、企業側はこれまで問題が生じることがあっても適当に折り合いをつけて穏便に済ませていたことから、強硬に権利主張する従業員に対し、どのように対応すればよいかの指針を持ち合わせておらず、初動で不適切な対応をしてしまうことで揚げ足をとられるような状況となりトラブルが深刻化する事例が見受けられます。

解雇をめぐるトラブル

「上司の指示に従わず反抗的な態度をとる」「遅刻を繰り返す」「同僚にマルチ商法の勧誘をする」「業務上のミスを頻発する」
このような問題社員は解雇して当然と考える事業主も多いと思います。

しかし、上記の理由でいきなり解雇をすると、いずれの場合も解雇無効と判断されてしまいます。

すなわち、解雇には法的ハードルが高く設けられており、労働法制においては、いわゆる能力不足、欠勤などの通常の債務不履行のみでは解雇できない制度になっています。解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、権利を濫用したものとして無効となります(労働契約法16条)。

解雇が無効になった場合、従業員の地位に留まることになり、会社側は従業員に対し、未払の賃金の支払義務を負うことになります。

では、上司の命令に従わない従業員に対してどのように対応すればよいのでしょうか。
従業員が上司の指示命令に従って労務の提供をするということは労働契約の基本的な内容といえます。

そこで、上司の指示が業務命令であることを明確したうえで、これに従わない場合、まずは口頭で注意・指導をし、従わない場合は、さらに譴責などの懲戒処分をします。

それでも改善が見込まれなければ、従業員からの申し出による退職の可否、普通解雇の可否を検討することになります。

当事務所で取り扱った事例では、入社直後から問題行動を繰り返す派遣社員に対して、詳細に上司や同僚からヒアリングを行ったうえで、就業規則上の懲戒処分を段階的に進めていきました。最終的に普通解雇により雇用契約を終了させました。

問題社員への対応では、企業側がいきなり解雇を選択すると、企業側の敗訴が濃厚となります。

当事務所では、労働紛争に豊富な実績があり、裁判において、解雇・懲戒が有効・無効となるケースについても熟知しております。労働問題については、ぜひ弁護士に事前にご相談ください。

同一労働同一賃金施策への対応

同一労働同一賃金施策とは、同一企業におけるいわゆる正規雇用労働者と非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パート、派遣労働者)との間の不合理な待遇差の改善を目指すものです。

短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パートタイム・有期雇用労働法)が改正され、令和3年4月1日より中小企業にも適用されるようになりました。

同法8条では均衡待遇規定(不合理な待遇の禁止)、9条では均等待遇規定(差別的取り扱いの禁止)が設けられており、事業主は、正規労働者と非正規労働者との間で不合理な待遇をすることが禁止されています。

上記規定は正規と非正規との賃金・手当等について、一切相違を設けてはならないというものではなく、あくまで不合理な相違を設けることが禁止されています。では、いかなる相違が不合理と評価されるのでしょうか。

ハマキョウレックス事件、メトロコマース事件、日本郵便事件などの裁判例において、基本給・賞与・退職金・皆勤手当・住宅手当などの相違が不合理なものといえるかについて判断が示されています。

それらで示された見解について、製造業に当てはめて考えてみると、例えば、正規労働者と非正規労働者がいずれも製造ラインの主任である場合、業務内容が部品加工、品質管理と同一であったとしても、正規労働者はトラブル発生時の対応が求められていて、非正規労働者にトラブルへの対応が求められていないとすれば、職務内容は異なると判断することができ、賃金について一定の相違を設けることも不合理とはいえないと思われます。

他方、作業手当、早出・夜間手当、食事手当などは同一労働の場合に際を設けることは不合理と判断される可能性もあるため慎重な検討が必要となります。
なお、給食施設、休憩室、更衣室の利用については、パート・有期労働者にも利用の機会を与えなければならないことが義務化されました。

なお、事業主は、雇用する短時間・有期雇用労働者から求めがあったときは、通常の労働者との待遇の相違の内容及び理由などを説明する義務があります(パートタイム・有期雇用労働法14条)。

事業主としては、改めて賃金、手当等の制度を確認したうえで、不合理な待遇差があればそれを解消する必要があります。そして、非正規労働者から説明を求められた場合は、待遇の違いの有無、その内容、理由を合理的に説明することになります。

3.当事務所でサポートできること

当事務所の弁護士は、測定器メーカーに勤務経験があり、数多くの製造業の現場を実際に訪問した経験があります。

実際に製造現場を確認することで、課題を適切に解決することができました。

また、現場担当者すら気付いていない潜在的なニーズを把握し、提案型の営業をすることを心掛けていました。

当事務所のリーガルサポートにおいても、上記のような姿勢を大切にしています。

例えば、契約トラブル等においても、業界の事情や製品の特徴等をヒアリングしながら事実関係をしっかりと把握し、必要に応じて、実際に訪問し、製造現場や製品を実際に見せていただくこともあります。そうすることで、ポイントを押さえた事案対応が可能になります。また、打合せの過程で、見えてきた周辺の課題について、予防法務の観点から整備を行うこともあります。

このように、当事務所では、経営者、担当者の方とコミュニケーションを密にとりながら、企業の置かれた状況において、最良の手段を講じつつ、トラブルが生じるリスクそのものを下げるための予防法務にも力を入れております。

当事務所で対応可能な法的支援は多岐にわたりますが、主な支援内容は以下のとおりです。

  • パワハラ・セクハラなどの労働紛争
  • 未払残業代請求
  • 解雇をめぐる紛争
  • 労災対応
  • 就業規則等の社内規定整備
  • 懲戒手続等のサポート
  • 各種契約書作成・リーガルチェック
  • 債権回収
  • 商業登記
  • 事業承継・M&A
  • 株主調査・管理支援
  • 債権回収
  • 会社分割・合併等の組織再編