fbpx

1.病院・クリニックの皆さまへ

患者や家族にとって、医師や病院・クリニックに対する期待度は非常に高く、病院に行けばすぐ治るという過度の期待を持っています。
しかしながら、医療行為はそもそも不確実な要素を含むものであり、想定外の結果が生じるリスクが常にあるといえます。

また、他のサービス業とは異なり、医療機関での間違いは絶対に許されません。
例えば、レストランでは、頼んだメニューと異なるものが運ばれてきても、間違いを指摘して交換してもらえばすむことです。怒るお客さんはそれほどいないでしょう。
しかし、病院では事情はまったく異なります。使用する薬が間違っていれば、生命に関わることがあります。
入院食のメニューなど命に関わらない事項であっても、病院内で間違いがあれば、患者はとても不安になります。患者にとっては、どんな些細なことであっても、医療現場において間違いが起こること自体が許されないと考えており、患者に関する情報が病院内で正しく伝達されていないことも問題だと考えます。
このように、病院・クリニックと他のサービス業とでは、ミスや間違いに対する許容度がまったく異なっているのです。

このように、医療現場では、医療行為の特質や患者の期待度から、何らかのトラブルが発生するリスクが常にあるといえます。
さらに、最近では、モンスターペイシェントという言葉があるように、医師や看護師に対して、暴言を浴びせたり、暴力を振るうなどの極端な行動をとる患者もいます。

これまで多くの病院・クリニックにおいては、患者と医療従事者との信頼関係に基づき、性善説に立って、患者の意思をできるだけ実現すべく最善を尽くすという視点で医療行為を行ってきました。
患者の要求が正当な範囲であれば、問題ありませんが、モンスターペイシェントなどのように患者が著しく理不尽な要求や行動をとった場合に、性善説ではおよそ対応が不可能です。

このような患者への対応に必要なのは、毅然とした態度であり、法律の知識ないし法的リスクを理解したうえでの対応が不可欠になります。

そこで、医療法人の顧問弁護士として活動している弁護士が、これまで経験した事例を踏まえて、病院・クリニック特有の法的リスクについて解説します。

2.病院・クリニック特有の法的リスク

(1)医療過誤にともなうリスク

医療過誤

医療事故とは、病院などの医療現場で、医療の全過程において発生する一切の人身事故をいいます。
そして、医療過誤とは、医療事故のうちの一部さし、医療従事者が医療の遂行において、医療的準則に違反して患者に被害を発生させた行為をいいます。
すなわち、医療過誤は、医療事故のうちで医師・病院側に過失があるものをいいます。

医療過誤が発生した場合、病院側には、刑事上及び民事上の責任が生じる可能性があります。
刑事上の責任とは、医療過誤によって、患者に傷害を負わせたり、死亡させたりした場合、刑法第211条の業務上過失致死傷罪が成立し、5年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金刑が科される可能性があります。
これは警察による捜査、検察官による起訴、裁判所における刑事裁判という流れで手続が進みます。

民事上の責任とは、医療過誤が生じた場合、病院は、民法709条及び民法715条の不法行為責任を負うことになります。
不法行為責任とは、医師に過失が認められる場合に、医師は民法709条により、過失と相当因果関係のある損害について、損害賠償責任を負うことになります。
そして、医師に不法行為が成立する場合には、業務中の事故であれば、病院にも民法第715条の使用者責任が成立することになり、病院も損害賠償責任を負うことになります。

医療過誤による損害賠償責任が成立するには、①過失、②損害の発生、③相当因果関係の3つの要件が必要となります。

過失とは、予見可能性に基づく予見義務違反または、結果回避可能性に基づく結果回避義務違反をいいます。具体例を示すと、症状や検査結果から、肺癌を発見することが可能であったのに、これを見過ごし、適切な治療をしなかった場合、心臓カテーテル手術において、適切なカテーテル操作により血管を傷つけないようにする注意義務があるのにこれを怠り、血管を突き破った場合などさまざまなケースが想定されます。

なお、過失の有無を判断する注意義務の程度は、診療当時における臨床医学の実践における医療水準に違反したかどうかであり、最新の医療水準を基準にするわけではありません。医師が、当時の医療水準に即した注意義務を怠ったと評価できるかが判断基準となります。
また、最終的に判明した原因を基に遡って過失を問うことをしてはなりません。すなわち、過失の有無は、医療行為の時点で得られていた患者の症状や検査結果などの情報に基づいて、あくまでもその時点で実施した医療行為が標準的な医療水準にかなっていたかどうかで判断されるのです。思わぬ結果が発生した場合に、遡ってこれをすべきであったといういわば結果論的な観点で過失の有無を判断することはあってはならないのです。

医師賠償責任保険

医療過誤によって、医師が損害賠償責任を負う場合、損害の主な費目としては、治療費、入通院慰謝料、後遺障害(または死亡)慰謝料、逸失利益などになります。
ケースによっては、賠償額が数千万円にのぼることもあり、病院・クリニックの事業の継続に大きな影響を与えることもあります。

医師賠償責任保険は、医療事業者が、偶然の事故によって、第三者に対する法律上の賠償責任を負担した場合に、その損害を塡補する保険です。
医療過誤が発生しないように細心の注意を払うことは当然ですが、万が一に備えて、賠償責任の保険に加入することは、事業を継続する上で必須だと考えます。損害保険会社から、医療事業者向けの保険が提供されていますので、ぜひ加入することをお勧めいたします。

(2)診療契約に伴うリスク

応招義務

診療契約とは、患者と病院との間で結ばれる診療関係に関する法的な合意をいいます。
患者が診察を依頼し、それに対して医師が診察を開始すれば、契約や申込書がなくても、患者と医師との間に診療契約が成立します。

もっとも、医師が他の職業と最も異なるのは、応招義務の存在です。
医師法第19条1項
診療に従事する医師は、診察治療の求めがあった場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない。
応招義務は、医師が国に対して負担する公法上の義務であり、医師の患者に対する私法上の義務ではないとされています。他方、組織としての病院・医療機関が医師を雇用する場合は、医師の個人の応招義務とは別に、医療機関としても、正当な理由なく診療を拒んではならないとされています。

診療を拒否できる正当事由の解釈について、最も重要な考慮要素は、当該患者について緊急対応が必要であるかどうか(病状の深刻度)です(令和元年12月25日付医政発1225第4号厚生労働省医政局長通知)。
すなわち、病状が深刻で緊急対応が必要なケースでは、診療時間内の場合、事実上診療が不可能といえる場合以外は、診療拒否が正当化されないことになります。

では、診療報酬の不払いや医師や看護師に対する暴言・暴力などの迷惑行為などを理由に診療を拒否することができるのでしょうか。

診療報酬の不払いが以前にあったとしても、そのことのみをもって診療しないことは正当化されません。
しかし、緊急性の無い場合において、支払能力があるにもかかわらずあえて支払わない場合など、悪質な場合は、診療しないことが許される場合もあります。

医師や看護師に対する迷惑行為については、暴力・暴言等の程度が激しく、刑法上の犯罪行為に該当する場合は、診療拒否は当然正当化されることになります。
また、その程度に至っていない場合でも、診療内容と関係のないクレーム等を繰り返し続ける場合は、診療の基礎となる信頼関係が破綻していることから、新たな診療をしないことが正当化されます。

診療報酬の滞納

診療報酬の滞納は、どの医療機関にとっても生じる問題であり、最も身近な法的リスクといえます。通院の場合の診療報酬であれば、1件ごとの自己負担分の滞納額はそれほど大きな金額にならないことが多いですが、入院費等になると滞納額が高額になることもしばしばあります。

未払いの診療報酬を回収するために先ず必要なのは、患者とコンタクトをとり、どうして支払わないのかその理由を把握することです。そのうえで、具体的な回収方法を検討することになりますが、具体的な方法としては、以下のように行います。

  1. 文書により支払を促す
  2. 弁護士名で内容証明郵便を送付し、支払を促す
  3. 訴訟・支払督促などの法的手続により債務名義を取得する
  4. 債権執行などの強制執行手続をする

なお、2020年4月1日以降の連帯保証契約においては、極度額の設定が必要になりました。入院等の契約書の連帯保証人の記載欄にも極度額の設定を記載しておく必要があります。

当事務所では、医療費の回収事案を数多く手掛けております。お困りの医療事業者様は、ぜひご相談ください。

医療機関における迷惑行為への対応

医療現場における迷惑行為には、以下のようなものがあります。

身体的暴力
「殴る、蹴る」、「コップを投げつける」、「つばを吐く」
精神的暴力
嫌がらせをする、理不尽な要求をする
セクシュアルハラスメント
身体的接触、意に沿わない性的嫌がらせ行為

医療事業者にとって、慢性的な人材不足の中、ハラスメントを受けた職員がケガや病気になり退職に至ることは大きな痛手となります。また、医療事業者は安全配慮義務を負っていることから、その責務として、患者のハラスメント行為から従業員を守る必要があるのです。

ハラスメント行為への対応の基本的な考え方は以下のとおりです。

  1. 組織的に対応する必要があること
    ハラスメント行為への対応は、組織的全体として取り組んでいくべき問題です。マニュアル等の作成や相談窓口の設置が重要となります。
    また、医療事業者が、ハラスメントを組織として許さない姿勢であることを患者や家族に周知することも大切です。病院内へ事業者の方針を掲示することもハラスメントを予防する効果があります。
  2. 初期対応が重要であること
    患者の不適切な行為や過度な要求に対して、要求に応じたりすると、更なるハラスメントを誘発し、行為がエスカレートすることがあります。理不尽な要求には、初動の段階から毅然とした対応をすることが重要です。
  3. ハラスメント情報を共有し、1人で抱え込まないこと
    問題が起こった際は、病院全体で情報を共有し、被害を受けた職員を担当変更するなど適切な対処をする必要があります。

当事務所では、迷惑行為対応の支援も行っています。医療機関の担当者から早めにご相談をいただき、対処法をアドバイスしながら、適切な解決を図っていきます。問題の初期からご相談いただくことで、初動対応を誤ることなく、スムーズな問題解決に至ることがあります。

また、職員が対応に疲弊している場合などは、事案のご依頼をいただき当事務所が対応の窓口になることも可能です。対応そのものを外部の専門家に任せ、本来の業務に専念することができます。

未払賃金請求

医療現場では、シフト勤務や変形労働時間制がとられていること、休憩時間にも利用者の緊急対応する必要があること、業務上必要な外部研修、訪問医療での利用者宅への移動時間などの要素があり、労働時間の正確な把握が難しい状況があります。また、慢性的な人手不足により、長時間労働が見過ごされている実情もあり、未払賃金が発生しやすい業界となっています。

残業代計算における基本的な考え方は、以下のとおりです。
残業代 = 時間単価 × 残業した時間 × 割増率
時間単価の算出方法は、労働基準法施行規則に定められていますが、月給制の場合、月給を所定労働時間で割った金額になります。
次に、タイムカードや入退館記録などにより実労働時間を確定させます。実務上は、準備作業や後始末作業の時間、待機時間、移動時間などが労働時間に含まれるかが争点になります。
最後に、労働基準法上の割増率を確認し、残業代を計算することになります。
実務上は、専用ソフトを使用して、一覧表を作成して残業代を把握します。

具体的な請求の流れとしては、従業員側の代理人弁護士から内容証明郵便が事業者に届くことが一般的です。交渉がまとまれば、合意書を取り交わします。
交渉がまとまらなければ、従業員側から労働審判ないし民事訴訟が提起されます。

残業代請求訴訟において、主要な争点に労働時間があります。従業員側が主張する労働時間が、そもそも労務を提供していたのかという事実問題として争いになり、さらに、労働時間の始期・終期、残業禁止命令、残業承認制、休憩時間など、労働時間該当性という評価の問題として争いになることも多いです。
また、使用者側が、固定残業代や手当として支払っていると主張することも多いです。

当事務所では、未払残業代の請求に対する事業者側の代理人として数多くの経験があります。残業代の請求を受けた場合は、ぜひご相談ください。

3.当事務所でサポートできること

当事務所の弁護士は、測定器メーカーに勤務経験があり、数多くの現場を実際に訪問した経験があります。

実際に現場を確認することで、課題を適切に解決することができました。
また、現場担当者すら気付いていない潜在的なニーズを把握し、提案型の営業をすることを心掛けていました。
当事務所のリーガルサポートにおいても、上記のような姿勢を大切にしています。経営者、担当者の方とコミュニケーションを密にとりながら、病院・クリニックの置かれた状況において、最良の手段を講じつつ、トラブルが生じるリスクそのものを下げるための予防法務にも力を入れております。

当事務所で対応可能な法的支援は多岐にわたりますが、主な支援内容は以下のとおりです。

  • ハラスメント対応
  • 未払残業代請求
  • 解雇をめぐる紛争
  • 医療事故対応
  • 訴訟対応
  • 就業規則等の社内規定整備
  • 懲戒手続等のサポート
  • 各種契約書作成・リーガルチェック
  • 滞納診療費回収
  • 商業登記
  • 事業承継・M&A