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1.農業事業者の皆さまへ

福井県は農業が盛んな地域です。豊富で良質な水と肥沃な土地に恵まれ、古くから米作りを中心に発展してきました。

福井県発祥のコシヒカリ、いちほまれなどを中心にした水稲のほか、六条大麦、大豆、そば、メロン、スイカ、らっきょうなど数多くの農産物が生産されています。

これまで福井県の農業を支えてきたのは、家族農業経営や兼業農家でした。
しかし、農業従事者の高齢化が急速に進展する状況となり、最近では農地の集積・集約が進んでいます。

農地の集約化に伴い、大規模法人が増加しています。
また、ドローンやGPS等を活用したスマート農業の導入、アジアなどへの農作物の輸出の拡大、6次産業化への取り組みなど新たな形態のビジネスが展開されています。

大規模農業を目指し、新たなビシネスを展開するに当たっては、事業に適用される関係法令を理解したうえで、事業を適法に運営する必要があります。

しかしながら、農業に関する法制度は非常に複雑です。
農業の代表的な法律である農地法のほか、食品分野では食品表示法や食品衛生法、さらに景品表示法なども関係します。
また、農薬取締法などの法律もあります。

そのため、農業事業者において、関係法令が十分に理解されないまま農業ビジネスが営まれていることが少なくありません。
また、新たなビジネスを行うにあたり、契約書の内容が不十分であるために契約トラブルが生じる事態も増えています。
農業事業者に、法的トラブルが発生した場合、これを合理的に解決する方策を持ち合わせていないことが多いのも実情です。

そこで、農業事業者の顧問弁護士として活動している弁護士が、これまで経験した事例を踏まえて、農業特有の法的リスクについて解説します。

2.農業特有の法的リスク

(1)規制法令に関するリスク

農地法による規制

農地とは、耕作目的に供される土地をさし、耕作とは、土地に労働及び資本を投じて肥培管理を行って作物を栽培することをいいます。
農地制度の根幹である農地法では、農地の効率的な利用促進と優良農地の確保等を図るため、以下のような規定を設けています。

  1. 農地等の権利移転・設定に関する制限(農地法3条)
    効率利用しないものや不耕作者による権利取得を排除するため、農地等の権利移転・設定は許可制になっています。
    許可を受けない権利移転・設定は無効であり、違反には罰則があります。
  2. 農地転用に関する規制(農地法4条、5条)
    優良農地を確保することを目的として、農地を農地以外に転用したり、農地転用のために権利移転・設定をしたりすることを許可制としています。
    許可を受けずに、無断で転用した場合は、原状回復等の措置が命じられたり、罰則による制裁を受けたりすることがあります。
  3. 賃借権の保護(農地法16条~18条)
    耕作権の保護のため、農地に関する賃借権の対抗力、賃貸借の法定更新、賃貸借の解約などに関する規定を設けています。
  4. 遊休農地に関する措置(農地法32条~42条)
    農業委員会が、年1回、地域内の農地の利用状況を調査し、遊休農地等を把握した場合には、所有者等を対象に利用意向調査を行い、遊休農地の有効利用のための手続を行うことになります。

相続による農地の取得

福井県では、相続が発生した場合、遺産に農地が含まれていることもめずらしくはありません。
相続による農地を取得した場合は、契約その他の法律行為による農地の権利移転には該当しないため、農業委員会の許可を受ける必要はありません。

もっとも、農地の権利者を的確に把握する必要があることから、相続に農地を取得した者は、農業委員会に届出をする必要があります。
届出の様式は、市町村の窓口に備え付けられていますので、届出を忘れないようにしてください。

農薬取締法による規制

農薬は害虫や雑草などを防除し、農作物を安定的に確保するために不可欠なものですが、反面、その使用方法や分量を誤ると健康被害が生じる危険なものでもあります。

そこで、農薬取締法では、農薬の安全かつ適正な使用の確保を促し、国民の健康や生活環境を守るために、農薬に関して登録制度を設け、農薬の販売及び使用の規制を行っています。

農薬取締法の規制を受ける農薬には、殺虫剤、殺菌剤、除草剤、植物成長調整剤などさまざまなものが指定されています。
農薬に該当すると、その製造や販売が規制され、さらに、使用に関する規制も設けられています。

まず、農薬取締法に基づき登録を受け、容器・放送に適切な表示が行われている農薬のみ使用が認められ、それ以外の農薬を使用してはなりません。

また、農薬の利用については、以下のようなルールが設けられています 単位面積当たりの使用量の限度を超えて農薬を使用しないこと 希釈倍数の最低限度を遵守すること 定められた時期以外に使用しないこと

これらの使用規制に反する利用をすると、3年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金という刑事罰が課される可能性があります。

ドローンを用いた農薬散布の法的規制

農業分野では、ドローンの活用が進められています。
肥料散布や圃場センシングなどにも活用されていますが、特に農薬散布の作業効率化のためにドローンを導入する事業者が増えています。

ドローンの散布に適した農薬も増えており、福井県でも大規模農家を中心にドローンが活用されており、大幅な作業効率化が図られています。

ドローンは航空法が規制する無人航空機に該当します。
ドローンによる農薬散布は、航空法が原則禁止している無人航空機からの物件投下に該当するため、国土交通大臣の承認が必要になります。
航空法のルールに違反すると、刑事罰が課される可能性があるため注意が必要です。

また、農林水産省では、ドローンによる安全な農薬散布を行うためガイドラインを作成しています。
空中散布計画書の策定などが必要とされていますので、これらについても注意する必要があります。

(2)販売・取引に関するリスク

農産品の販売に関する規制法令

農産物や加工品等の食品を販売する場合は、商法や民法などの商取引に関する一般法とは別に、食品特有の法律を遵守しなければなりません。
特に重要な食品表示法、景品表示法について説明いたします。

食品表示法
食品表示法は、ほぼすべての飲食物に適用される食品表示の中心となる法律です。
食品表示法4条1項は、食品表示基準を規定しており、すべての食品関連事業者は、食品表示基準に従って食品に一定の表示をしなければなりません。
農作物等の生鮮食品に必要な表示項目は、横断的義務表示事項と個別的義務表示事項に区分されます。
横断的義務表示事項は、共通して表示すべき事項で、名称、原産地、放射線照射に関する事項、遺伝子組み換え農産物に関する事項などがあります。
個別的義務表示事項は、玄米及び精米、しいたけなど対象となる生鮮食品ごとに表示項目が詳細に定められています。

景品表示法
景品表示法は、商品の取引に関連する不当な表示による顧客の誘引を防止するため、一般消費者による合理的な選択を阻害するおそれのある行為の制限及び禁止について定める法律です。
農作物や加工品を販売する場合は、景品表示法に抵触するような不当な表示をすることのないように注意する必要があります。
品質、規格その他の内容についての不当表示は、優良誤認表示に該当します。
具体的な事例としては、
焼き菓子の販売において、コシヒカリ純米クッキーなどと記載していたが、主原料が小麦粉であった場合
100%果汁と表示したジュースの成分が実際には100%ではなかった場合などが優良誤認表示に該当します。

取引基本契約書の重要性

契約書作成の意義は、権利義務の発生及びその内容を明確にし、さらに、交渉担当者以外の者への証明手段を残すことにあります。
そして、後日、契約当事者間に取引上のトラブルが生じた場合には、契約書が解決の指針になり、紛争を予防する機能を果たします。

このように契約書は企業法務の基本となる重要なものですが、残念ながら農業事業者においては、契約書の重要性や契約書に潜むリスクを理解しておらず、簡単な注文書のみで取引を行っていることが多くあります。さらには、注文書すら作成せず、口頭で受注を行っていることもあるのが実情です。

最近は、農業事業者においても、米粉や加工食品などを販売することが増えています。
頻発する契約トラブルとしては、品質に問題があるとして代金の支払いを拒絶されるケースがあります。
契約書を作成していなかったり、作成されていても品質などが明確に規定されていなければ、解決をすることは容易ではありません。

農業事業者においては、まずは必要事項を網羅した契約書を作成することが、契約トラブルを予防する出発点となります。

当事務所では、事業及び取引に即した内容で、契約書の作成を行っております。ぜひお気軽にお問い合わせください。

(3)従業員に関するリスク

農業における労務管理

労働者を雇用して事業を営む場合、個人事業主でも法人でも労働基準法の適用を受けることになります。
もっとも、農業では、労働基準法の重要規定が適用除外とされています。

すなわち、農業においては、 天候等の自然条件に左右される 事業及び労働の性質から1日8時間や週休といった規制に馴染まない 天候の悪いときや農閑期等、適宜休養が取れる

上記のような理由で、労働基準法41条で、労働時間に関する規定が適用除外とされています。

しがたって、農業事業者は、法定廊度時間から大きく逸脱しない限り、法定労働時間に縛られることなく、1日の所定労働時間や1週間の労働時間を自由に設定することができます。
例えば、1日10時間、1週間50時間と労働時間を設定することも可能になります。
また、時間外労働や休日労働という概念がないので、所定労働時間を超えた労働をした場合であっても、割増賃金を支払う必要はありません。

また、労働基準法では、労働時間が6時間を超える場合は45分、8時間を超える場合は1時間の休憩時間を労働時間途中に、原則として一斉に与えなければならないとされていますが、農業においては休憩に関する規定は適用されません。したがって、休憩を与えずに働かせても労働基準法上は問題にはなりません。

適用される労働規制

農業事業者にも、労働基準法の以下の規定は適用されることに注意が必要です。

就業規則の作成義務
常時10人以上の労働者を使用する事業場においては、就業規則を作成・届出し、労働者に周知する必要があります(労働基準法90条)。
これに違反した場合は、30万円以下の罰金が科されますので、注意が必要です。

労働条件の明示
使用者が労働者を雇用する場合、労働者に対して、次のような労働条件を明示しなければなりません(労働基準法15条)。

絶対的明示事項
  1. 労働契約の期間
  2. (有期雇用の場合)契約更新の基準
  3. 就業場所・従事する業務
  4. 始業・終業時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇、交替制勤務をさせる場合は交替期日や交替順序
  5. 賃金の決定・計算・支払方法、賃金の締切り・支払の時期、昇給に関する事項
  6. 退職に関する事項(解雇の事由を含む)
  7. 昇給に関する事項
相対的明示事項
  1. 退職金の定めが適用される労働者の範囲、退職金の決定、計算・支払の方法、支払時期に関する事項
  2. 臨時に支払われる賃金、賞与などに関する事項
  3. 従業員に負担させる食費、作業用品などに関する事項
  4. 安全・衛生に関する事項
  5. 職業訓練に関する事項
  6. 災害補償、業務外の傷病扶助に関する事項
  7. 表彰・制裁に関する事項
  8. 休職に関する事項

最低賃金
賃金の最低額は、最低賃金法に基づき都道県毎に定められいます。
農場事業者においても最低賃金の規定は適用されます。
前述のとおり、農業においては、法定労働時間の規定は適用されませんが、月額賃金を所定労働時間で割った1時間当たりの賃金の額が最低賃金を下回らないようにする必要があります。

深夜労働に対する割増賃金
労働基準法41条では、深夜労働の割増賃金に関する規定は除外されていません。
したがって、農業事業者も、午後10時以降の深夜労働に労働者を従事させた場合は、割増賃金を支払う必要があります。

年次有給休暇の付与
農業においても、従業員の年次有給休暇を付与する必要があります(労働基準法39条)。

農業事業者が従業員を雇用した場合は、農業の特性に配慮した労務管理をする必要があります。
就業規則を作成せず、労働条件を明示しないなどということは論外ですが、雇用契約書や就業規則を他の産業分野と同じように作成して、労働時間を1日8時間とし、実際にはそれ以上働かせているのに残業代を支払わないというのも非常に問題です。2年間遡って未払賃金を支払うことになりかねません。

当事務所では、農業法人等の就業規則の整備や労働紛争の解決に豊富な実績があります。農業事業者の方はぜひご相談ください。

農作業事故

農作業における事故は、農業機械作業時のトラクターからの転落、施設作業時の転落、夏期の作業時の熱中症などさまざまな事例が報告されています。
特に農業機械作業中の事故が多く、なかでもトラクターからの転落事故が多くを占めているのが特徴です。
また、農業従事者の高齢化に伴って、65歳以上の高齢者の事故が全体の8割を占めています。

農作業事故が発生した場合の農業事業者が追う責任として、まず刑事上の責任があります。
従業員が死傷した場合は、刑法第211条の業務上過失致死傷罪が成立し、5年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金に処せられる可能性があります。
また、労働安全衛生法違反として刑罰が課される可能性があります。

次に、不法行為責任や安全配慮義務違反などの民事上の損害賠償責任を負う可能性があります。
死亡事案や重大な後遺障害が残存する事故のケースでは、賠償額が高額になります。

農業事業者は、労働安全衛生法により、農作業中の事故を防止するため、労働者に安全教育を行うことが義務付けられています。
最近では、外国人実習生や障がい者などさまざまな労働者が農業に従事するようになっていますので、各労働者の特性に応じた安全教育を丁寧に実施することが重要です。

3.当事務所でサポートできること

当事務所の弁護士は、測定器メーカーに勤務経験があり、数多くの現場を実際に訪問した経験があります。

実際に現場を確認することで、課題を適切に解決することができました。
また、現場担当者すら気付いていない潜在的なニーズを把握し、提案型の営業をすることを心掛けていました。
当事務所のリーガルサポートにおいても、上記のような姿勢を大切にしています。例えば、不動産取引のトラブル等においても、業界の事情や物件の特徴等をヒアリングしながら事実関係をしっかりと把握し、必要に応じて、実際に訪問し、物件を実際に見せていただくこともあります。そうすることで、ポイントを押さえた事案対応が可能になります。

このように、当事務所では、経営者、不動産物件のオーナー様とコミュニケーションを密にとりながら、依頼者の置かれた状況において、最良の手段を講じつつ、トラブルが生じるリスクそのものを下げるための予防法務にも力を入れております。

当事務所で対応可能な法的支援は多岐にわたりますが、主な支援内容は以下のとおりです。

  • 労働紛争事案
  • 未払残業代請求
  • 解雇をめぐる紛争
  • 労災対応
  • 就業規則等の社内規定整備
  • 懲戒手続等のサポート
  • 各種契約書作成・リーガルチェック
  • 債権回収
  • 不動産登記・商業登記
  • 事業承継・M&A